教育天声人語
生徒への愛情、責任感


  3月、4月は普段会っていない人と会う機会が多い。S先生とは春に会うことにしている。1年
 に1回であるから、当然いろいろな話が出る。今年は大学合格実績が思わしくなく、その話が多
 くなった。聴いているうちに、「今年は食事会が来年3月に延期になった」と言う。「食事会って何
 なの?」と尋ねると、毎年S先生が小論文指導をしている国立文系の生徒(例年14〜17名)と、地
 方の大学に進む子が東京に居るぎりぎりの3月30日か31日に食事することにしているという。「ど
 うして延期なの?」「今年はすごくできる子が10連敗して、浪人するのです」
  「その食事会の費用、どうしているの?」先生は毎月の給料からそのためのお金をためていると
 のこと。毎回5万円は超える。「人数が少ないときはお寿司屋さんやフレンチに行ったりしますが、
 多いときはカレーになることもあります」
  もうお一人は教頭時代からすると25年近いお付き合い。昔話をした後で、「校長を退かれたら
 何をしたいですか?」と尋ねた。「ゆっくり旅行したいですね」とおっしゃる。「先生は引率で
 しょっちゅうあちこちに行かれているでしょう」と返すと、「校務では海外にも行きますが、校長
 になってからはプライベートではほとんど旅行したことはないです」と言われる。「どこにも行っ
 ていないということはないでしょ」とまぜっかえしてしまった。まじめな先生で、翌日メールが
 来た。「家に帰って調べてみたら、西は名古屋で、東は千葉でした。プライベートは本当に近場で、
 学校から呼び出しがあったらすぐに戻れるところと考えていました」
  確かに、思春期の子どもを預かる学校はいつ何が起きるかわからない。この先生のように自分
 をきちんと律していらっしゃる方が多いのではないだろうか。
  学校案内、HPには載らない先生たちの愛情、責任感・・・・・・。そうしたものを保護者に伝える
 ことも私の役目かな、と思う。

「ビジョナリー」2019年5月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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