教育天声人語
蕎麦屋とラーメン屋

  同じ麺類の店でも蕎麦屋とラーメン屋とでは店構えがまるで違う。蕎麦屋は表も店内も暖色系
 の色はほとんど使わない。暖簾もメニューも自己主張をしない。厨房も、蕎麦を運ぶ女性も静か
 で、注文受け、会計等必要最少限のやり取りで済ませる。一方ラーメン屋は、特に最近の店は、
 朱・オレンジ・濃緑といった原色に近い色を使い、極太の手書き文字で店名を名乗る。店内では
 大きな声が飛び交う。蕎麦屋のメニューが十年一日の如くなのに対し、ラーメン屋はいろんなも
 のをトッピングに加えたり、スープを鶏ガラとか魚介とか選ばせたりもしている。蕎麦屋で券売
 機で食券を購入するケースはないが(駅蕎麦はこれがふつうであるが)、ラーメン屋は券売機方式
 が多い。ことほど左様に両者はいろいろな点で異なっている。
  学校にも蕎麦屋っぽい学校と、ラーメン屋っぽい学校とがある。そしてどうも活気のあるラー
 メン屋っぽい学校にお客が集まっている。が、長い期間にわたって定点観測をしていると、蕎麦
 屋はすごく繁盛している感じはしないが潰れないで続いている店が多い。一方ラーメン屋は、テ
 レビや雑誌に取り上げられたり、外国人観光客が来たりして、華々しかった店が数年後にはな
 かったりする。
  いま学校は保護者に選ばれるために、時流に合わせていろんなことを積極的に取り入れている。
 が、その奥では一般論として「学校ってそもそもどのような存在なのか?」、自校については「わ
 が校の存在意義はどこにあるのか?」を振り返りながら進めていただきたいと思う。
  私が最近、学校の「存在意義」として気付かされたことに、ある女子校の年配の卒業生が「〇〇
学園はいつも私にとって『北極星』でした」と語っていた言葉がある。

「ビジョナリー」2018年7月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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