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その答案は「美術室に足をふみ入れ、着席する。ありとあらゆるものが新しく、春のやわらか
な光をたたえている。」という文章で始まっていた。
女子美術大学付属中学校の2月2日午後の入試は、初めて行う「女子美 自己表現入試」。作文
である。女子美はずっと2科4科の入試を行ってきた。何か女子美らしい入試が出来ないものか。
検討する中で、国語科から美術に関する作文の提案があった。「作文では学力が担保されない」
という意見が出て頓挫しそうになったとき、美術科の教員が発言した。「絵を描かせるとき、ど
ういう絵を描くか、前もって構想を文章化させます。その文章がキチンと書ける子は、中学のと
きは教科学力が今一つでも高校になるころには教科の学力も上がってきます」
作文のテーマは「これからの私」。次の制約を設けた。・主人公はあなたです ・入学後はじめ
ての美術の授業です ・授業内容は水彩画です ・美術室にはクラスの皆と先生がいます……。
その入試には、予想を大きく超える143人の出願があり、試験当日も64人が受験しに来た。採
点は、国語科全員が64人の作文に目を通して行った。途中、「この子、教えてみたい!」、何度
もそんな声が上がった。
全ての入試が終わった最初の職員会議で、国語科がいくつかの作文を読み上げた。冒頭の答案
にはこんなことが書かれていた。「ふと隣を見ると、独創的で、グラデーションをうまく使って、
暗闇に浮かぶ金色のバラを見事に描いている子がいた。彼女は美術教室に行っていたに違いない。
私は“敗北感”に襲われる。<中略>彼女に追いつくための時間は6年間もあることに気づく。
他教科の教員の中には涙ぐむものもいた。誰もがいま共通して思っていることは、「大変だっ
たけどやってよかった! 来年もぜひやりたい」
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