教育天声人語
デュエルに負ける

  今年も知人のメガバンクの行員が顧問をしている大学横断のサークル「経済指標研究会」の『講師
 謝恩会』に参加した。私は講師ではないが、顧問との縁で5年ほど前からずっと出ている。
  会の中頃、1人の女子学生が隣にやってきた。早速「何年生? 専攻は何?」と尋ねる。「お茶
 の水女子大学の1年で、心理学を勉強しています」 「この会で、心理学専攻に会ったのは初めてだ
 な。どうして経済を勉強するこの会に入ったの?」 「私、留学生で……」ここで驚いてしまった。
 日本人だとばかり思って話していたからだ。「えっ、そうなの!? 韓国? 中国? 台湾?」「中国で
 す」 「中国のどこ?」 「西安です」一気に好奇心が高まり、いろいろ尋ねた。
 「卒業したら、中国に帰るの?」「 いえ、ドイツの大学の大学院で経済の勉強をしたくて、目下ド
 イツ語も勉強しています」「 中国は一人っ子政策をとっていたから、あなたは兄弟はいないのではな
 いの?」「 一人っ子ですが、親も帰って来いとは言いません」
 「日本に来て日本語学校で勉強したわけ?」「 いえ、独学です。西安には日本語学校はないので、
 通信教育で勉強しました」独学で、こんなにも日本人のように喋れていることに驚嘆してしまった。
 「日本の大学生活はどうですか?」「 日本は大学でも『年功序列』で、サークルの役職は皆上級生が担
 当します。下級生は自分の意見を言わず、先輩の指示で動きます。実力主義でないです」「 それ、あ
 れだよ、そもそもが中国の孔子の影響を日本社会は大きく受けているからだよ」「 コウシ?」ここで
 初めてつっかえた。紙に「孔子」と書いたら通じた。今の中国では「孔子」は歴史でほんの少し触れ
 るだけだそうである。
  一人で親戚も知り合いもいない日本に来て、しかも目線はさらに世界に向いている。
  先日のサッカー日韓戦で1−4で完敗した後、田嶋会長が「試合に負ける、デュエル(1対1の対決)
 に負ける」と談話していたのを思い出してしまった。

「ビジョナリー」2018年1月号掲載     |もくじ前に戻る

(c)安田教育研究所 無断複製、転載を禁ず