教育天声人語
ツール以上に重要なもの

  文化学園大学杉並高校には「ダブルディプロマコース」があり、カナダと日本の2つの高校卒業
 資格を取得できる。塾説では、このコースの校長であるDan Miles先生が説明された。懇親会の名
 刺交換のときに、「昔ブリティッシュコロンビア大学に行ったことがありますよ」と思わず言って
 しまった。そしたら「英語でいいですか?」と言われ、慌てて、「プア、プア」と言って日本語にし
 てもらった。そんなことがあり、35年も前のことを思い出した。
  カナダ大使館が、修学旅行、海外研修先にカナダを選んでもらおうと、日本各地の高校の先生
 10人ほどを招待した企画だった。私には雑誌で「高校生留学ガイド」の記事を掲載していた関係か
 ら声がかかった。先の大学のほか、私立の名門女子校、総合学科のような公立高校などを見学し
 たが、肝心のその記憶はあまりなく、待遇がすごかったことが印象に残っている。宿泊はフェア
 モント・バンフ・スプリングスなど超一流ホテル。帰りの飛行機は人生で唯一のファーストクラス。
 メニューにOsamu Yasudaと印字されていることに驚いた。
  いまどこの学校でも海外研修に力を入れているが、当時も海外に出かける学校は結構あった。
 同僚も聖学院のアトランタ校や駿台学園のアイルランド校に行ったりしていた。いちばん違うの
 は、生徒の中に英語を身につけなければというニーズが格段に強くなっていることではないだろ
 うか。
  また、スカイプ、オンライン英会話といったツール、学校によってはネイティブが10人以上も
 いる学校もあるなど、英語を学ぶ環境は格段に向上している。が、昔も今ももっとも重要なのは、
 本人の「何が何でもくらいついてものにしてやる」という意欲と行動力であることは変わらない。
 昨年、旭川の女子校を訪れたとき、英語で見事なプレゼンをした生徒は、市内でなく郡部の出身
 者だった。中学校に来たALTにくらいついて身につけたと言っていた。

「ビジョナリー」2016年6月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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