教育天声人語
鋭い、かつ多様な視点に触れさせたい

  高大接続が急速に広がり、大学教授に学校に来てもらって生徒に講義してもらう学校が近年もの
 すごく増えている。それを10年前、2007年から行っている学校に、桐光学園がある。
  毎年1年分の講義を翌年に水曜社から書籍として刊行していた。私(安田)も最初のものから3年
 分は手に入れていた。が、4年目以降のものは持っていなかったので、合同相談会の折だったか、
 広報部長の三浦敏行先生に話したら、届けてくれた。2007年からのものが、テーマ別に「ちくまプ
 リマー新書」5巻に収められていた。またそれとは別に、最新の講義が、「高校生と考える日本の問
 題点」というタイトルで、左右社から刊行されていた。
  この正月休み、これを読んだ。講演者のラインナップがすごい。伊東豊雄、内田樹、金森修、金
 子勝、姜尚中、田中優子、長谷部恭男、藤嶋昭、森山大道、湯浅誠……。こうした大御所だけでなく、
 私の知らない若手研究者も何人もいる。詩人や美術批評家もいる。これほど幅広く、なおかつ鋭い
 ことを指摘する講演者を探し出し、起用している桐光学園の先生はすごいなとまず思った。
  聴き手は中学生・高校生であるが、演者は持論を遠慮なく展開する。こんな具合である。内田樹
 は平田オリザの言葉を引用して「今のグローバル人材の育成というのは、ユニクロのシンガポール
 支店の店長を創り出すための教育のことだ(低賃金でハードワークできる人材)」と語る。金森修は
 水俣病や薬害スモン事件、サリドマイド被害を例に挙げ「科学的に明確な因果関係がないといって、
 一人一人の健康よりも産業を保護することを優先する。そこに日本社会の悪しき本性が現れていな
 いでしょうか」と訴える。
  いまマスコミ、自治体、企業……いろんなところで、政権・自民党・役所・大企業の圧力が働き、
 先取りして自ら自粛する動きがある。そうした時代だからこそ、多様な視点に触れさせるこうした
 試みがもっとあっていいように思う。

「ビジョナリー」2016年2・3月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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