教育天声人語
「『社員』ぽい先生が多いんですよね」

  3月以降だけでも8つもの合同相談会、学校説明会で保護者向けに講演をした。このほか校長の
 集まりでも2回ほどお話しした。そうした折の立ち話、質問で気になるものがあった。
  ある合同相談会で、講演の終了後に相談に寄ってきたお母さんが何気なく口にした言葉だ。
 「〇〇中に行ったら、先生らしい先生が多くてホッとしました。最近どこへ行っても『社員』ぽ
 い先生が多いんですよね」言われてみれば、以前の先生は広報活動(営業活動)をしなくて済んで
 いた。『社員』になる必要がなかったのである。
  国際フォーラムなどで各校のブースを回ると、髭を生やしたり、長髪でいたりするのはたいて
 いが広報活動をしなくていい難関校の先生。保護者は、単に髪型や服装だけでなく、持っている
 雰囲気、話しぶりなどトータルなもので感じているのではあろうが……。
  校長の集まりで、民間企業から来たと思われる方が質問というかこんな意見を述べた。「先生
 は社会経験が乏しい人が多い。先生の常識は社会の非常識、社会の常識は先生の非常識、そう感
 じている」。この方に限らず、民間企業のほうが上という意識の方が少なからずいる。組織として
 の「効率性」がいいことが、そうした意識が生まれる主たる要因のように思う。が、そもそも、両
 者は同質の上下ではなく、異質なもののように感じる。
  もっぱら自分自身の仕事の成果に関心があるのが社員。長いスパンでの生徒の成長を意識する
 のが先生。書棚に「3週間で〇〇になる」といったハウツウ本が並ぶのが社員(もちろん偉い人は
 名著を読むが)、すぐには役に立たない教養的な本が並ぶのが先生。
  そう考えると、先生にはやはりアカデミックな『先生』ぽくなってほしいものである。。
  偶々安田研に来た人に以上のような話をした。そのとき返ってきたフレーズ。
  「心に残る教師はいるけど、心に残る上司はいない」

「ビジョナリー」2014年7月号掲載     |もくじ前に戻る| |次に進む

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