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理系の大学で、最初の授業のとき、教授が黒板に字を書き、「これ、何と読みますか?」と質問
した。声が上がらなかったので、教授は一番前に座っていた女子学生を指名した。
「エ〜ッ、わかんな〜い!」そう発した後、恐る恐る口を開いた。「いく…、なに…、がく?」
理系の大学に「幾何学」が読めない学生が入ってくるとは……。
「リメディアル教育」を特集したテレビ番組の一コマである。これは本人がしゃべったエピソー
ドだが、この女子学生は商業高校の出身であった。商業高校からどうして理系の大学に進学する
ようになったのか、そのいきさつは語られなかったが、続いて驚かされたのは、この女子学生が
現在、大学院で「応用数学」を研究しているというのである。
この女子学生の話は、どうしてもインパクトの強い「いく・なに・がく」に引っ張られてしまう
が、「幾何学」が読めなかった学生が、大学院で「応用数学」を研究するまでになっていると
いう、この大学の教育の果たしたすごさのほうに、我々は関心を寄せるべきではないだろうか。
仕事柄いろんな学校と接しているが、確かに先生方の努力以前に、学校によって入学してくる
生徒の学力には雲泥の差があるのが現実だ。つい、「うちに入ってくるような子はいくら熱心に取り
組んでも暖簾に腕押し状態だから……」と、諦めの心境に陥っている先生も少なくないことと思う。
が、この女子学生のような例もあるのだ。小学校時代には、中学校時代には、本人も親も気が
ついていなかった能力・資質を見つけ出し、それを伸ばしてやっていただきたい。
いま社会全体が、パワハラ、セクハラ等の問題があるので、どうしても表面的な付き合いに流
れがちだ。が、深くかかわらないことにはこの女子学生のようなことは生まれようがないのだか
ら、先生方にはぜひ生徒と濃密に付き合っていただきたい。
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