教育天声人語
「うまくいかない」ときに…

  学校は「学力」を伸ばす場。学校教育の中心は「知育」。週刊誌・ビジネス誌の学校を扱う
 記事といえば、大学合格実績に関するランキングばかり(安田研でも取り上げているが…)。
  学校説明会で語られることも、「多彩な海外研修先」「充実のキャリア教育」「ネイティブ教員
 が常時4名在校」「高校卒業時点で英検準1級を目指す」「理科実験室が5室」「卒業論文」「勉強
 合宿」「自習室では20時まで学習が可能」「週37時間授業」……と、もっぱら「学力」周辺のこと
 が多い。
  受験生の保護者からの相談も、「将来的には早慶に進ませようと思っているのだが、どこが
 いいだろうか…」「いまはまだYの偏差値は50 なのだが、〇〇学園は可能だろうか…」「□□中
 と△△学院では英語はどちらが伸びそうか…」と、保護者の関心も勉強面ばかり。
  ときどき、「お父さん、お母さん、ご自分の中高時代を振り返ってみませんか」と、言いそう
 になる。ごく一握りの優等生を別にすれば、多くの中高生の青春は明るく順調な部分だけでは
 なかったはずだ。思うようにいかない暗い部分がたくさんあったはずだ。
  ほんのわずかなことで長い時間をかけて築いてきた友だち関係が壊れてしまった。上手な後輩
 が入ってきて、自分は上級学年になっても到底レギュラーにはなれそうもない。このところ親と
 満足な会話をしたことがない。自分はいろんなことの経験が乏しく、これといって自慢できるも
 のが何もない。鏡を見れば、青春ドラマの登場人物からははるか遠いさえない顔が映っている。
  中高時代とは、そんな「うまくいかない」日々の連続なのではないだろうか。
  そうした「落ち込んだとき」「自信を喪失したとき」「挫折したとき」「心が怪我をしたとき」
 ……そのときにどう向き合ってくれる学校なのか、それも大切ではないですか。
  そんなことも保護者に伝えたい。

「ビジョナリー」2012年8・9月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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