教育天声人語
挙手の角度で、指名するか判断していますか?

  ソフトバンクホークスと中日ドラゴンズとの日本シリーズ第2戦、スコアレスで迎えた 3回
 の1死1、2塁の絶好のチャンスに、パ・リーグ首位打者の内川に打順が回った。と、中日ベンチ
 から落合監督が審判のもとへ歩み寄り、内川のバットに巻かれたグリップにクレームをつけた。
 これについては、「落合流のしたたかな心理戦」「あのタイミングでクレームをつけるとは汚い」
 ……いろんな意見が飛び交った。そんな中で、「パ・リーグの捕手が誰一人として気がつかなかっ
 た(指摘しなかった)ことを指摘するとは、落合はよく見ているな」という点は共通していた。
  前年にもこんなことがあった。2010年4月27日のナゴヤドームでの巨人戦。球審の体調がよく
 ないとみた落合は予備審判員との交代を勧めている。ベンチの定位置から、自軍の選手だけでな
 く相手チームの選手、審判員までじっと観察しているのである。
  私は落合の足元にも及ばないが、「書くことは見ること」と肝に銘じているので、比較的何で
 も観察する。先日、スーツの受け取りにデパートに行った折に一人でランチした。いまデパート
 の食堂は高級な専門店が並び、客層も熟年のカップルばかり。押し黙ったままのカップル、盛ん
 に女性が話しているカップル、携帯・スマートフォンを見せ合っているカップル……それぞれが
 どんな関係だろうと、想像してみる。学生時代の友人? 趣味の会での友人? 不倫? 料理が
 運ばれてくると二人の関係が明らかになる。料理が先に男の方に運ばれて来たとき、男がさっさ
 と食べだせばこの二人は間違いなく夫婦である。ある程度緊張関係にあれば、互いが揃うまで箸
 をつけない。おかずを交換している二人は友人以上か。
  教室で生徒が挙手をしている。机に対して90度の子、45度の子、20度の子。先生は何度の子
 まで自信ありとみて指名するのだろうか。

「ビジョナリー」2012年2・3月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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