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林望は『イギリスはおいしい』などのエッセイで知られるが、本職は書誌学者である。最新刊『か
くもみごとな日本人』(光文社刊)は、その書誌学者としての本領が発揮された著作といえる(元々
は日本経済新聞に連載された〈株〉スタッフサービスの広告コラム「リンボー先生のオー人事録」に
加筆したもの)。
巻末の参考資料一覧を見ると、よくもこんなにも文献を渉猟したものだと感心する。そうした
あまたの書物から、傑出した人物でありながら、いまではあまり語られることのない70人を探し
出し、その生涯に光を当てたものがこの著書である。800字という(この「今月のクローズアップ」
と同じ)ごく短い文章で、その業績と人となりを描き出している。
これらの先覚たちの並外れた刻苦勉励の姿に接すると、己のだらしなさを自覚させられるのは
当然としても、その一方で励まされる気持ちにもなるから不思議である。今の子はほとんど伝記
といったものは読まず、あこがれる大人といえば、雑誌やテレビで目にするセレブであったり、
大金持ちであったりする。この本を読みながら、こうした人たちの存在を子どもたちに伝えたい
ものだとずっと思い続けていた。我々の先輩は、ろくなテキストもない困難な勉学環境の中で、
独力で勉強し、黙々と仕事し続けたのであった。林望もこう記している。「わが近代は、実はこう
いう人たちがつくったのである」
読む前は知らなかったが、実はこの70人の中には、漆昌厳(品川女子学院創立者の父)、近藤真
琴(攻玉社の創立者)、嘉悦勢代(嘉悦学園創立者の祖母)という私学ゆかりの人が登場する。私は
それぞれの章を読んで、腑に落ちたことが2つある。品川女子学院の企業とのコラボなどのセン
スは現校長によるものと思っていたが、ルーツは漆昌厳までさかのぼること。先の故・嘉悦康人
先生の葬儀の祭壇に宮家の生花が3つあったことを不思議に思っていたが、嘉悦家が尊皇派であっ
たという歴史的背景を知って納得できたのである。
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