教育天声人語
自分のところを選ばなかった人たちこそ気になる

  「中学三年コース」という学年誌の編集に携わっていたとき、次年度の雑誌作りの参考にするた
 めに、毎年この時期に中学を卒業していく読者にアンケートをとっていた。「どんな記事が印象に
 残っているか」「もっと増やしてほしかったジャンルは何か」「ほとんど読まなかった記事はどのよ
 うなものか」……といった内容である。
  ある年、学年誌をまったく読んでいなかった中学生に集まってもらい、座談会を開いた。「なぜ
 読もうと思わなかったのか」「別なものを読んでいたのか」「中身以前に、雑誌そのものに関心がな
 いのか」……そんな類のことを聞いてみた。そうしたところ、これまでアンケートで得られていた
 ものとはまったく異なる意見を得られたという経験がある。
  学校も、入学してきた生徒・保護者に「わが校を選んだ理由は何ですか」「わが校にどんなことを
 望みますか」……といったアンケートをとられていることと思う。
  そこから得られるものは、概ねいまの学校のあり方について肯定的な感触ではないだろうか。
 受験して入学してきた生徒・保護者なのだから、当然そうである。
  実は、雑誌作りにおいて、より参考になったのは、自分の雑誌を読んでくれていた読者の感想
 ではなく、こうした雑誌をまったく読まなかった生徒の意見であった。
  学校についても、同じことが言えるのではないだろうか。自分のところを視野に入れなかった、
 途中で選択肢からはずした受験生・保護者はどういう人たちなのか。どういう理由なのか。
  「入学してきた生徒・保護者が満足しているのだから、いまのままでいい」というのではなく、
 時にはそうしたリサーチをしてみることをお勧めしたい。
  きっと、内部の人間が気がつかなかった指摘がなされると思う。

「ビジョナリー」2009年4月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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