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仕事柄「学校案内」を開くことが多い。しばしば目にするキャッチコピーに「グローバル社会
のリーダーを育てる」というのがある。最近、この中身について具体的に記す学校も出てきた。「コ
ミュニケーション能力」「自己表現力」「論理的思考力」「国際理解力」「英語力」……概して能力的な
側面が多いが。
が、偏差値30台の学校を訪れ、現実の生徒を目の当たりにしていると、こうしたフレーズよ
りずっと手前の次元のことが気になってしまう。ある学校で、校長と二人だけになった時に、「実
際のところ、先生の学校では生徒さんをどう育てたいと考えていらっしゃるのですか。」と尋ね
てみた。すると、「うちの生徒のレベルでは『国際社会で活躍』を望んでも難しいでしょう。む
しろ地域社会で、人と協力しながらいきいきと生きられる人間に育てたいと思っています」そ
う率直に語られた。
学校から駅に戻る道すがら、以前読んだ「崖っぷち弱小大学物語」(杉山幸丸著・中公新書ラク
レ)を思い出していた。京都大学から中京地区の無名の私立大学に学部長として招かれた著者は、
これまでとあまりに違う学生の状況に接して、どうしたものか悩み続ける。そして次のような
結論に達するのである。
「普通の人間が普通の社会で普通の人生を送れるように育てよう。普通の若者が元気を出せる
ような教育をしよう」と。
「学校案内」にこうした現実を表現するわけにはいかないだろう。が、一方では、生徒を見つめ、
「背伸び」だけでなく、真に生徒のためになることをやってほしいものである。
ハイヒールで小さな子の手を引いて颯爽と歩く母親でなく、ローヒールで身をかがめて子ど
もの目をのぞき込む母親のように。
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