教育天声人語
教員の「採用」「退職」を克服するには…

 
  経済界では今「ゆるブラック企業」が問題になっている。?時間の残業、パワハラ上司
 がいる「ブラック企業」ではなく、無理する必要がない仕事、怒らない優しい上司という
 恵まれた(?)環境の企業のことだ。プライベートの時間が十分取れて、ライフワークバ
 ランスが成り立つので理想的に思えるが、こうした企業を辞めてしまう若者が増えてい
 るという。理由は「ここにいても成長できないから」。向上心のある優秀な社員ほど辞め
 ていくので企業は困っているそうである。
  学校は今「ブラック」とみなされて教員のなり手が激減している。「生徒募集」以上に
 「教員採用」が最大の課題になっている学校があるほどだ。教員を採用していく上でも、
 長時間労働、パワハラをなくすのは当然だが、その一方で「働きがい」が民間企業の仕事
 よりもあることを強調する必要がある。。
  企業では「パーパス(理念)経営」が注目されていて、Z 世代を引き付ける求心力は報
 酬ではなく共感と言われている。この点では人間を育てる学校のほうが企業よりよほど
 持っている人を集められると思うのだ。
  最近ある学校で、校長と来年の教員人事について話しているときに、非常勤講師のまま
 なのに他校に移らない先生の話になった。「今しばらくこの学校にいて『授業力』を高め
 たい」というのが理由だそうである。働き方改革で、つい「ゆるい」場をつくる方向に行
 きがちだが、ここはひとつ「成長できる」場にしていただきたい。
  と同時に、今一度「パーパス」つまり「わが校の存在意義はどこにあるのか」を全員で
 考え、それを共有していただきたい。それが採用にも辞められないことにもいちばん有効
 であるはずだ。

「ビジョナリー」2023年12月号掲載     |もくじ前に戻る

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