教育天声人語
最高のコーチは自分


  いまテレビをつければ、そのたびに大谷翔平選手が画面にいる。10年前、太田に選手が花巻東
 高校から日本ハムファイターズに入団したときのスカウト部長が大渕隆さんだ。大渕さんは新人
 選手の入団式の時にこんなことを言っている。
 「君の最高のコーチは、自分自身だ。自分の中に、最高のコーチを育てられるかがとても重要
 だ」監督、コーチの指示で活躍しても、それは長続きしない。
  テレビを通して知った範囲だが、確かに大谷選手は体作りも、トレーニングも、自分で考えて
 自分のペースで行っている。
  朝の小テスト、放課後の補修・講習、塾・予備校を導入した課外講習……「働き方改革」もあっ
 て、今3番目のシステムを整備する学校が増えている。学力をつけ、大学に合格させるためだ。
 確かにあるところまでは大学合格実績向上につながっている。が、難関大学になると、システ
 ムだけでは通用しない。
  自分で、「自分には何が必要か」を考え、それを付けるには「何をどうすればいいのか」を判断
 し、「実際に実行し続ける」意思、姿勢が欠かせない。先生方がよく口にする『自学力』とはまさに
 このことではないだろうか。
  0時限、7時限、8時限と、学習時間を増やすことは形だからやりやすい。が、「自分を最高の
 コーチ」にするのは生徒側の問題だから、先生にとっては難しい。先生はつい欠点・弱点
 を指摘して直させるタイプのコーチになりがちだ。ここはひとつ生徒に自分のいいところ、優れて
 いるところに気づかせて、自信を持たせることから始めてはどうだろう。
  この春も、何人もの先生から退職のご挨拶をいただいた。「生身の生徒を相手にする悪戦苦闘し
 た歳月は充実していた」と皆がおっしゃる。現役の先生は、「自分を最高のコーチ」として、成長
 していただきたい。

「ビジョナリー」2023年4月号掲載     |もくじ前に戻る

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