教育天声人語
不合格者こそ大切に


  12月のある日、新聞の投稿欄にこんな内容のものを見つけた。高校3年生の母親の
 投稿である。息子がある美術大学の自己推薦入試を受験した。息子はプレゼンする作品
 を頑張って作り、面接に臨んだ。合否の発表はWebだった。自分と一緒に画面を見つめ、
 不合格と知った息子は、すぐに自室にこもってしまった。どんな言葉をかければいいの
 か、どんな態度で向き合えばいいのか、自分はオロオロするばかりだった。
  翌日、速達で不合格通知が届いた。教授の手紙が添えられていた。「作品や面接からは
 貴君の熱意が伝わった。多くの受験生の作品を前に教員の意見も割れた。合否は紙一重だ
 った。推薦入試で不合格だった多くの先輩は一般入試にチャレンジして、今〇〇美大
 生として制作に取り組んでいる」
  落ち込んでいた息子が俄然元気を取り戻した。”この教授の下で学びたい”と現在一
 般入試に向けて再び頑張っている、というものである。

  中学入試でも、高校入試でも、合否の多くはWeb上で結果のみがもたらされる。それ
 で終わりである。Webになる以前は、一部の学校では不合格者に校長名で励ましの手紙を
 送っていた。“試験期間中に再度不合格を意識させるのは問題がある”“うちはすべり止
 めで落ち込んでなんかいないかもしれない”“どこかにすでに合格しているだろう”・・・
 ・・・中高入試は間が短いから実際に働きかけるのは案外難しい。入試が終わってからでも
 構わないだろう。
  この教授のように生徒に学ぶ意欲を起こさせるような何らかの働きかけができないだ
 ろうか。当然合格者でもいい。中学、高校に期待を抱いて入学でき、さらに学ぶ意欲旺
 盛で門をくくれるようになれば最高ではないか。
  受験生も、保護者も、いちばんナイーブな時期だからこそ、この時期を活かせないか。
 直接自校のメリットにつながらなくても、”好感”は残るはずだ。

「ビジョナリー」2022年1月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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