教育天声人語
目立たない存在


  渡辺明3 冠(36)は第78 期名人戦では豊島将之名人に挑戦し、第91 期棋聖戦では藤
 井聡太七段の挑戦を受けている。現役最強の棋士と言われているが、奥さんの描く漫画
 『将棋の渡辺くん』によると、かなり変わっている。本物の犬は大の苦手な
 くせに犬のぬいぐるみを100 体も持っている。奥さんが留守の時に洗濯物を取り
 込めないし、一人では買い物にも行けない。
  同年の講談師・神田伯山( 36)も大人気である。ある人がその人気の要因
 を「独りで立つりりしさ」と表現している。芸能界でも経済界でも、同じ事
 務所であること、同窓であることで、持ちつ持たれつの関係が生まれ、それ
 を当てにして入所、入学するケースも目立つ。そんな中、伯山は、「友だちが
 いない」と公言し、芸能事務所にも所属せず、大物の忖度も全くしない。
  この二人には共通項がある。二人とも聖学院の出身で、ともに在学中は全
 く目立たない存在だった。尻を叩かない校風が合っていたのだろう。自分( 安
 田) もやはり高校時代は全く影が薄かったから、なんとなく共感する。そん
 な自分が3 年で無事卒業できたのは、勉強しなくても先生が放っておいてく
 れたからだ。わが子の成績が低下したといって、親が「補習してほしい」「追
 試してくれ」と要求してくるだろう。が、そんな面倒は見ないで、放ってお
 いてあげてほしい。20 年後、30 年後、それが「感謝」につながるケースがき
 っとあるはずだ。

「ビジョナリー」2020年7月号掲載     |もくじ前に戻る

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