教育天声人語
説明会では、わかりやすく、具体例で


  緒方貞子さんが亡くなった。そのニュースで思い出したことがある。ずいぶん前だが、ある女子
 校で教員研修を行った帰り、教頭が最寄りの駅まで車で送ってくれた。車内で「最後に先生が『片
 山さつきでなく、緒方貞子を育ててください』と話されましたが、わかりやすくていいですね」と
 言われた。確かに「社会貢献できる女性を育ててください」では頭の中を素通りしてしまうだろう。
 いま説明会で、「○○力、△△力、××力をつける」と語る学校が多いが、多ければ多いほど保護
 者には何も残らない。保護者に説明会の印象を聴くと、思い出してくれるのはいずれも具体的エピ
 ソードである。数年前まで日本経済新聞に短いコラムを連載していたが、そのとき担当者から要請
 されていたのが、「必ずファクトを入れてください」だった。今もいろいろなところに文章を書いて
 いるので、日常的に『ファクト探し』に神経を使っている。
  あちこちに顔を出すのも、雑多な本を読むのも、言ってみれば『ファクト探し』である。このひと
 月の手帳をめくってみると、中学受験の保護者向け講演、高校入試関連のセミナー等が幾つもある
 のだが、神田女学園の中学校ソフトボール全国優勝祝勝会、N校の塾対象説明会、ある女子校の文
 化祭、メガバンクの行員と私学の理事長との懇談会、桐光学園での社会学者・水無田気流さんの講
 演……と、いろいろである。共通するのは、メインの仕事の「周辺部」であること。だからこそ、私
 の原稿の読者対象に関わるファクトが拾えるのだと思う。
  例えば、ソフトボール祝勝会。来ていたのは「足立レインボーガールズ」、「葛飾ダイヤモンド ガー
 ルズ」「東綾瀬エンゼルス」等々……小学生のソフトボールチームの監督。全国優勝チームの選手全
 員がこうした地域クラブの出身者であった。普段、中学進学というと塾経由のことばかり頭にある
 が、こういう「進学ルート」があることは新鮮な発見であった。
  先生方もぜひいろんな「周辺部」に関心を持っていただけると話の材料が広がると思う。

「ビジョナリー」2019年12月号掲載     |もくじ前に戻る

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