教育天声人語
「もんじゃ焼き屋」に学ぶ


  私はレストランに行くと、ほとんど出てきたものをそのまま食べる(さすがにパスタの時だけ
 はチーズを振りかけたり、タバスコを垂らしたりするが)。大多数の人がそうではないだろうか。
  が、友人の一人に、必ずソースや醤油をかけたり、七味をかけたりする奴がいる。一度「プロ
 の料理人が味付けしてくれているのに失礼だろ」と言ったことがある。そうしたら、「海外ではテー
 ブルにいろいろな調味料が載っていて、めいめいが自分の好みの味にして食べるのがふつう」と
 返された。私の海外でのレストラン体験はセッティングされたものが多く、自分であれこれ味付
 けした経験がないのでわからないのだが、そうだとするとこのことはきわめて示唆に富む。
  海外では素材に近い形で提供し、客が自分の好みに合わせて味付けする。日本は調理人が完成
 品を提供し、客は出されたものをそのまま食べる。そう受け止めていくと、いま盛んに「受け身
 の姿勢から主体的、能動的に動くように転換する必要がある」と言われていることも根は深いこ
 とがわかる。
  浅草で「もんじゃ焼き屋」をやっている従姉妹がいる。人手不足の時代に、「もんじゃ焼き屋」
 は強いという。そもそも調理をお客がやるのであるから、食べ物屋で一番重要な調理人が要らな
 い。素材を良くして、客が自分たちで調理を楽しめるような場づくり、雰囲気づくりをすれば、
 それでOK。修学旅行生には「どこから来たの?」「えっ、〇〇県から来てくれたのか。」「おばさん、
 以前〇〇県に旅行したときに地元の人に親切にされたから、そのお礼にみんなにはおまけしちゃ
 おう! いっぱい食べて」……これで翌年の後輩にも引き継がれる(当然〇〇県はどこでもいいの である)。
  自分たちでワイワイ言いながら協力しあって調理する。主体性・多様性・協働性を養うには、
 グループで「もんじゃ焼き屋」に行かせるといいかもしれない。

「ビジョナリー」2019年2・3月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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