教育天声人語
見ている保護者はちゃんと見ている

  やむをえぬことだが、この時期、よく知っている校長、広報担当者が何人も退職されてしまっ
 た。帰宅時に、夜遅い電車の車内から暗い窓外を眺めているとき、ふと寂しい気持ちに襲われる。
 早くに退職されることを知った数人の方にはなんとかお会いできたのだが、多くの方は大量の
 仕事を抱えていた時期だっただけに、それがかなわなかった。
  早くに知ったある校長について、この春その学校に入学することになっていた親しいお母さん
 に携帯で知らせたところ、電話の向こうで絶句してしまった。後日聞いたところによると、そ
 の日はショックで眠れなかったそうである。また、入学後に校長の話を書き留めるための専用
 のノートまで用意していたという。こんなことがあったので、掲示板にも先生方の退職を残念
 がる書き込みがあるのではと覗いてみた。あまり見つからなかった。
  が、ある中堅どころの学校で、カリスマ性があるわけでもない、派手な話をするでもない、ど
 ちらかというと地味な印象の校長について書き込みがあった。
  「雪の中、受験生をコートもなしにお迎え下さった校長先生は素敵な方でした。」「辞められる
 ということで、お体の調子が悪いという理由でなければよいのですが…。改革に頑張っていら
 したので、ハードワークだったのかしらなんて思ったりしております。」
  学校の将来を心配する書き込みではなく、体のことを案じてくれているのだ。
  校長ではない、一広報担当者についてのものも見つかった。
  「広報の○○先生が退職されたとのことでショックです。……とにかく残念です。そう感じて
 いる方々も多いのではないでしょうか? 」「我が家も○○先生の親しみのもてるトークに後押し
 されての受験でしたので、寂しいです。」「もっとお話ししてみたかった…。淋しいですが、子
 供達の成長で恩返しできれば、そう思うことにしました。」
  真摯な、誠実な姿勢は、伝わる人にはキチンと伝わるのである。

「ビジョナリー」2008年5月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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