塾対象説明会訪問記
 
品川女子学院中等部 東京都 女子校
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初めに、「品川女子学院のミッション」と題して、学校長・漆 紫穂子先生から説明がありました。

・今日は、学校の目標と姿勢の2点について話したい。

・目標は、社会に役立つ女性を育てること。この目標のためにはどんなことでも変えていく──こういう精神でいく。どんな女性を育てるのか。

以前は手に職をつけることだったが、今は次に示すとおりである。

「私たちは世界をこころに、能動的に人生を創る日本女性の教養を高め、才能を伸ばし、夢を育てます」

これは、私たち教職員全員で考えた。この意味することとは……。世界は今、環境問題等に直面している。子どもたちに世界の中の日本を考えてほしい。知人に心臓外科医がいる。手術ロボットを使って国内でしかできなかった手術が海外でもできるそうだ。たとえばそのようなことを分かったうえで、社会で活躍する女性になってほしい。世界で活躍している人に聞くと、日本で生まれたことを誇りに思い、子どもに対しては日本文化をしっかり伝えたいという。それにも応えたい。子どもが大人になる頃には、女性の活躍がさらに広がる。先日、早稲田大学の総長と話した折、昔と違って、同じ力があれば女性の方が断然チャンスがあると聞いた。時代のいい波に乗っていけるのは女性である。前向きで明るい女性を育てたい。

・お題目にならないように、「28Project」を掲げた。

子ども達が28歳になった時をゴールイメージしている。28歳をゴールにすると、勉強しなければならないことが変わってくる。では、なぜ28歳なのか? 

1つは仕事面からだ。仮に大学院に行って、インターンを経ても、学んだことを社会に戻せるのが28歳頃である。

2つめは28、29歳が平均の出産年齢だから。

この「28Project」をシャワーのように浴びせている。生徒が変わってきている。例えば、会計士から「数学は捨てられませんよ」と言われると、生徒は「そうか」と思う。目の前の大学受験のことだけを考えると削除されてしまうことが、将来のことを考えると変わっていく。もう少し頑張ってみようかとモチベーションが上がる。

・28歳から逆算して、何をしていくかを決めている。

中1では「地域を知る」。地域のみなさんと花壇の手入れをしている。近所の方が褒めてくれる。生徒は役に立っていることを知って、社会の一員であることに気づき、社会性が身につく。

中2では「日本を知る」。小笠原流の礼法を学ぶ。例えば「ペンを貸して」と言われたらどうするか。まずは芯を出して逆側に向けて差し出すだろう。さらにできる人は相手の利き手のほうへ差し出す。もっとできる人は試し書きをして渡す。ここまでできればだいたいOK。基本は相手に対する思いやりとはどういうことなのかを知ること。茶道にしても華道にしても、日本人が大事にしてきたことを知る。専門家から言ってもらうと素直に生徒に入っていく。

中3では「世界を知る」。仕事の「世界」とグローバルな意味での「世界」。世界中とコミュニケーションしていくためにTOEIC への取組みをしているが、テストのためだとモチベーションが上がらない。そこで、ニュージーランドへの修学旅行など、行事を通して繰り返し使うことをしている。

仕事の「世界」は企業の協力による総合学習も毎年行っている。今年は「牛乳に相談だ」の中央酪農会議さんとCMを作っている電通さんに協力をいただいた。

本校では、仕事の世界を子どもに伝えたい。新卒者の3分の1が3年以内にリタイアしている現実がある。女性はあっという間に30歳になり、仕事か子どもを産むかの葛藤がある。時間のムダをさせたくない。だから、仕事のことをよく伝えるようにしている。大学選択は将来の仕事にからむ学部・学科から考えるように指導している。来年以降、さらに強化していく。

大学の先に仕事がある。企業とのコラボレーションにも力を入れている。実際に商品開発も行う。森永製菓とコラボして、ハイチュウの新しい味を作ろうとした。技術的にできなかったが、商品開発の厳しさを学ぶことができた。社会人から言われることは子どもの耳に素直に入るようだ。カッコよくも映るようで、そんな人になりたいという生徒もいて、良いモデルになっている。

・品川女子学院には、もう1つ、大切な姿勢がある。以下の4つ。子どもにとって学校に合う・合わないがある。合わないとかわいそう。だから、4つの姿勢がある。

4つの姿勢とは……。
1)オープン 2)スピード 3)能動的 4)あれもこれも である。
1) オープンとは、本校の情報は良いも悪いも知らせる。現状を知ってもらうことで合う人に来てもらいたい。財務も公開している。学校にはどのくらいお金があり、何に使っているのかも知ってもらう。校則もオープンにしている。分かってもらったうえで約束を守れる人に入ってきてほしい。
2) スピードとは、本校では良いと思ったら、6割であっても安全性を確認して行動に移す。
3) 能動的とは、生徒が28歳になる頃には親は60歳くらいになる。自立している必要がある。本校では失敗もさせる。親はハラハラ、ドキドキしてしまうだろう。過保護の家庭には向いていない。
4) あれもこれもとは、学校行事が多く、大変に忙しい。マルチタスクに耐えられる生徒でないとダメ。苦しくなってから工夫が出てくるものだ。それに耐えられる家庭の生徒に来てほしい。

<私の感想>

品川女子学院の取組みは、学校経営の危機を乗り越えて今があり、そのリアリティが感じられて説得力がありました。教育方針には関心させられました。
生徒を育て、伸ばしていくために、どの学校も教育方針・教育内容はそれぞれの実情に合わせてよく考えられています。その結果は、「出口」における生徒の成長(大学合格実績だけではない生徒の人間的成長も含めた全般)に現れてきます。もし、生徒の成長に違いがあるとしたら……、それは実践に差があるのかもしれません。どう指導したか、どう教えたのか、どう生徒のモチベーションを高め生徒を動かしたのか等の差です。当たり前以上のことを確実にやる日々の地道な教育実践が大事なのでしょう。品川女子学院では、目標に向かって教員も生徒も最高度に多忙に動き、生徒の成長が高まっていっているようです。良い結果を出す組織は、明確な目標のもと、動きがいいですね。


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