教育春秋
『神様のカルテ』
 いろんなことが錯綜して神経が立ち、なんとなく自分がイラついているなと感じられるとき、気持ちを少し優しくしなければならないと思う。そんなときは、ブラッと本屋をのぞき、神経を鎮めるのにふさわしい本を探し、それを持って、喫茶店に行く。

 最近出会ったのが『神様のカルテ』(小学館文庫)。
 松本の民間病院で働く内科医・栗原一止は、24時間態勢の病院で、2人の若い研修医と夜間救急患者を診察・治療・手術しながら睡眠も満足にとれない日々を送っている。そんな苛酷な環境の中、卒業した大学の医局から「大学に戻ってくるよう」誘われる。大学に戻れば、高度な先端医療を学ぶことができる。が、目の前にはその大学病院から見放され、自分を頼りにしている患者がいる。

 ガンで亡くなった身寄りのない老女の遺品の中に、栗原は自分宛の手紙を見つける。
「私は夫を亡くした後ずっと、自分ほど不幸な人間はいないと思ってきました。でも人生の最後に、先生は私から『孤独』を取り除いてくださり、こんなにも楽しい時間をくれました」
 登場人物がみな温かく、優しい人ばかり・・・・・・。読み手もしぜんと優しい気持ちになれる本です。先生も神経がささくれだったときにはどうぞ。

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「安田研通信」2010年6月下旬号

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