教育天声人語
高校でどうして『地学』をやらないの?


 「『ブラタモリ』、前澤友作氏の宇宙旅行など、世間では地学、宇宙が話題なのに、
 なぜ高校では地学は人気がないのか」という取材依頼が来た。普段の取材とは勝手が
 違ったが、興味があったので、少し調べるから数日ほしいと言って受けた。
  見学をすると、物理・化学・生物の実験室はあるが、地学実験室がある学校はごく一
 握り。地学の専任教員がいる学校も限られている。共通テスト・理科2の受験者数は、
 物理が146,041人、化学が182,359人、生物が57,878人に対して、地学はわずか1,356
 人。
  子ども時代、岩石好きは少ないにしても、星座の図鑑に夢中、ロケット作りに熱中、
 気象予報士にあこがれた・・・という子は多かったはずだ。それらを十分伸ばせていない。
  女子校で地学実験室があって専任教員がいる学習院女子に聴いてみた。「地学は資源科
 学であり、防災科学であり、環境科学という側面を持っています。気象学の発達によっ
 て台風被害等が未然に防げるようになってきましたし、地震学の進歩も目覚ましく緊急
 地震速報など世界に先駆けて運用されているシステムもあります。こうした応用科学が
 地学であり、その入り口が中高の地学教育です。」
  いま地球規模で問題になっているオゾン層の破壊、酸性雨、火山爆発、温暖化など環
 境問題、化石燃料の燃焼、海底資源開発など資源問題、日本が直面している南海トラフ
 地震、火山活動、水問題・・・・・・我々が抱えている大問題にはみな「地学」が関わってい
 る。
  これら切実な問題を解決するにはこうした分野の研究者、従事者が大勢必要であり、
 そのためには地学を勉強しようという生徒を育てる必要がある。根本的には大学入試の
 科目指定という次元から変えなければならないだろうが、まず第一歩として我々一人ひ
 とりが地学の重要性に気づき、生徒に面白さを伝える必要があるだろう。

「ビジョナリー」2022年2・3月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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