教育天声人語
いつまでも、どこまでも

  日曜夜のTV番組「田舎に泊まろう!」をよく観る。田舎の家族が、みんなで働き、仲良く暮
 らし、老人もいい笑顔をしていることに、ホッとさせられる。この番組のメインスポンサーの
 一つが「いすゞ自動車」。1 時間番組の中で何回かこの会社のテーマソングが流れる。「いつま
 でも、いつまでも〜、どこまでも、どこ〜ま〜でも〜」。商品はトラックだから、顧客にとっては
 「いつまでも走ってくれること、どこまでも走ってくれること」、つまり性能が良くて丈夫なこと
 が最大のポイントである。そういう点で、このCMソングは見事にそれを表現しているわけだ。
  これが乗用車の場合はどうだろうか。「外国の美しい自然風景の中を颯爽と駆け抜ける」「若い
 女性がパリの狭い街角をくるくると走り回る」「子どもを乗せてファミリーで楽しい外出」……
 車種によってそれぞれにふさわしいテレビCMが流れている。近頃では「エコ」が強調されるも
 のも多い。
  つまり、乗用車の場合は性能以外の部分、つまり「文化」で選ぶことが多いのである。
  近頃の学校選択を見ていると、どうも性能(大学にいかに入れてくれるか)にポイントが置か
 れているような気がしてならない。つい最近受けた相談も、「将来早慶に進ませたいのだが、い
 まはその付属には届きそうにない。どこなら大学で早慶に進める可能性が高いか?」。
  格差が広がる中で、子どもの将来が少しでも「安全」なようにと、いま保護者はわが子を有名
 大学に入れることに一生懸命である。だからどうしても「性能」にばかり注目してしまう。そし
 てそうした育て方が日本の子どもを小さくさせている。
  そうした状況だからこそ、学校には、自校が大切にしているもの(精神)、先生が伝える価値観・
 世界観、中学・高校生活自体にある意義……といった「文化」を強調していただきたいと、「いつ
 までも、どこまでも」を聴くたびに思うのである。

「ビジョナリー」2009年12月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

(c)安田教育研究所 無断複製、転載を禁ず