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「安田さんの本が今ひとつ売れないのは、なんとなく『受験に熱くなりすぎるな』というにお
いがあり、それを保護者が敏感に感じているからですよ」、ある塾の先生に鋭い指摘をされた。
「我々塾は、お子さんの合格のために全力投球しています──そういった姿勢を見せていないと、
すぐそっぽを向かれてしまうんですから」
わが子をなんとしても合格させたい。それは親として当然だろう。ただ親たちより、そして
ほとんどの学校、塾の先生より歳を取っている人間として、少しだけまさっている部分がある
とすれば、生意気を言うようだが、順調に行った人生の数と同じくらい、思いがけず順調に行
かなくなった人生の数があることを知っていることだ。
私の年齢だと、社会の一線から既に退いた人間もいる。ときに人生を振り返る。
そうしたとき、いま親たちがわが子に必死になって与えようとしている履歴・富裕といった
外的条件は、人生において必要条件かもしれないが十分条件ではないことを感じている。
誤解されないために敢えて断っておくが、私は何も、外的条件を獲得するために子どもに学
力をつけることを否定しているのではない。ただそれだけでは不十分であることを指摘してい
るのだ。
国のリーダー層や官僚がついポロッと漏らす本音。それのなんと冷たいことか。優秀なだけ
では困るのだ。“cool head but warm heart”(アルフレッド・マーシャル)の“warm
heart”の部分を育てるのをおろそかにしないでほしいといっているのだ。
それが、受験渦中の保護者は余裕がないから伝わらない──そういうことなんだと思う。でも
学校の先生、塾の先生にはこの部分をぜひ大切にしていただきたい。保護者だって賢明な人は、
“cool head”だけでは幸せになれないことをわかっていると思うのだが。
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